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失神者続出の『Raw』を見て思ったこと

フランス映画祭で鑑賞した『Raw(英題)』は、今年見た中でもかなり衝撃的だった。

 

Raw(英題)』は、カニバリズムに目覚める少女のお話。

カナダで開催されたトロント国際映画祭では、

あまりにグロテスクな内容に失神者が続出し、救急車が呼ばれたほど。

映画ファンの間では、少しざわついた作品だった。

 

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【簡単なあらすじ】*ネタバレなし

ベジタリアンの獣医一家に育った16歳のジュスティーヌは、

両親も卒業し、姉が在学中である獣医学校に進学する。

心を踊らせ、入学してみたものの、

そこでは代々、酷い「新入生いじめ」が行われており

一定の期間は、上級生のいいなりにならなければならなかった。

 

「新入生いじめ」は、部屋のもの(マットレスや衣類など)をゲリラ的に窓から放り出されることにはじまり

お酒を大量に飲まされたり 、豚の血を全身に掛けられたり散々なものばかり。

 

そのなかの"通過儀礼"の一環として、

新入生一同は、ウサギの腎臓を生で食べさせられることになる。

ジュスティーヌは、「わたしは、ベジタリアンなの。姉に聞いて!」と助けを求めるも

すでに学校に染まりチャラチャラになってしまった姉により、強制的に肉を口に放り込まれる。

 

それから、ジュスティーヌは嘔吐し、体に拒絶反応が出てしまい、ひどい蕁麻疹に悩まされることに。

しかし、変化はそれだけではなかった。

「一度食べた肉の味」が忘れられず、夜な夜な冷蔵庫をあさり、生のササミなどに食らいつくようになるのだ。

彼女の中で、じわじわとカニバリズムが目覚めていく…。

 

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こちらは怖い方の予告編。

蕁麻疹をかきむしったり、血を浴びせられたり、ショックな映像が続く中で

クラブや真っ赤な廊下、主人公が鏡の前で踊っている姿は

アーティストのミュージックビデオのような

スタイリッシュなかっこよさが見受けられる。

 

◆一味違った「食人映画」

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今まで、カニバリズムのキャラクターが出て来る映画は何百本もあった。

有名なので言えば、『食人族』や『グリーン・インフェルノ』、『羊たちの沈黙』のレクター博士など。

 

しかし、これらの作品と『Raw(英題)』には決定的な違いがある。

それは、「わたし」目線で描かれていることだ。

 

多くの映画の中では

主人公を怯え上がらせる恐怖の対象として描かれてきたカニバリズム

『Raw(英題)』では、自分の中に目覚めるアイデンティティーとして扱われている。

 

今作で人肉を欲する衝動は

少女が性に目覚めることへのメタファーとして描かれているのだ。

 

◆「カニバリズム」は彼女なりの成長

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これは単なるホラー映画でもグロテスク映画でもない。

 

性に目覚めた自分に葛藤するいわば青春ムービーの類だ。

 

性の目覚めには、誰しも不安と葛藤が伴う。

いけないことと分かっている気持ちと反比例するように

衝動は止められなくなってゆく。

 

この映画において

食人への渇望は単なる大人の階段の一段にすぎない。

 

ホラー映画の怪物ではなく、ジュスティーヌは普通の女の子なのだ。

 

◆性の苦しみ

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愛には様々な形があって性的魅力を感じる対象も様々。

 

同性愛を含むLGBTは、かつては

罪として罰せられ、精神異常者として扱われてきた。

今でもなお極刑に処される国がある。

 

LGBTの方々は

自分の性に目覚めた時、

正常とされる「異性愛者」以上の不安や葛藤を感じていただろう。

 

LGBTには明るい未来の扉が開きつつあるが

この映画で取り上げられた人肉愛好者のほか、

小児愛者、死体愛者たちなどの

マイナーな性に目覚めてしまった人々は

これからも社会に認められない異常者として扱われ

死ぬまで悩み続けなければならない。

 

多様性が重要視される時代であるが

上記にあげた人々は、例え合意のうえであっても

社会に受け入れられる可能性は絶望的だ。

 

本能的に湧き上がってしまった欲求

セラピーに通ったとしても

そうやすやすと抑えられるものではない。

苦しいが、なんとかして共存しなければならないのだ。

 

色々思考を巡らせていると

映画が終わる頃には

胃の不快感と、心臓をずしっと押されるような感情になっていた。

あの時は、さっさと家に帰って、胸に溜まった経血みたいな感情を吐きたかった。

 

目を瞑っても遮断できない

映画館で聞く不快な音に吐き気を催したものの

観客たちに恐怖以外の思考を残せるホラー映画はまれだ。

 

主演を務めたガランス・マリリアーは

インタビューにて

この映画で感じ取ってほしいものを

以下のように述べている。

 

希望を見出してもらいたいし、いかなる抑圧にも果敢に挑む精神を見出してもらいたいですね。

カニバリズムホラー映画「RAW」主演女優が語る、社会的タブーと性の目覚め | Fashionsnap.com

 

性に限らず

人と違う部分に悩むことは皆に当てはまることだろう。

 

自分の中に眠る異常性と

どう付き合っていくのか。

この映画はもしかしたら

自己啓発映画だったのではないかとすら思える。。